原状回復請求権
改正前
民法は賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う(旧法606条1項)と規定して、賃貸人の義務のみを定めておりました。
これだと、賃借人の原状回復義務が導き出せないという難点がありました。ただ、判例上はきちんと原状回復義務が認められていました。それは、賃借物は最終的には貸主に返さなくてはならないもので、そうであれば特定物に関する旧法400条の適用がり、善管注意義務が借主に課せられていたので、それに反するような使用には、債務不履行責任を負わせようというものでした。
改正後
黄色い部分が606条1項に追加されました。また、621条が新設されました。
つまり、賃借人の帰責事由により修繕が必要となった場合(通常の使用及び経年劣化は除く)は、賃貸人ではなく、賃借人が直しなさい、と明記されたのです。実はそれだけなのです。
もう少し異なった言い方をすると、通常損耗・経年劣化は、賃貸人が負担し、それ以外の場合には賃借人が原状回復義務を負うということです。
(賃貸人による修繕等) 第六百六条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。 2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。 (賃借人の原状回復義務) 第六百二十一条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
法務省パンフレットについて
しかし、法務省のパンフレットを見ると(最初に確立したルールを明文化しただけと述べているが)、株の配置による床のへこみやクロスに画びょうを刺した利した場合、通常損耗だから、原状回復義務を負わないと読めます。そんなことはありません。特に絵がいやらしいです。家具の絵を見ると、あたかも家具を引きづってできた傷まで通常損耗のように見えますし、クロスの絵はかなりぐちゃぐちゃにしても通常損耗の範囲内のように見えます。しかし、決してそんなことはありません。通常の生活において生じる程度の傷であれば通常損耗でしょうが、下の絵のようにめちゃくちゃにしてしまった場合は、通常損耗・経年劣化以外に該当する可能性があるということです。
賃貸人の方が不当に敷金を得るパターンが多い時もあったでしょうが、一方で賃借人が部屋をめちゃくちゃにして、敷金では修復が間に合わず賃貸人が泣きを見るケースもありました。
賃貸人、賃借人、お互いが気持ちよく契約し、その履行をすることが一番大切ですが賃貸人も賃借人も今回の民法改正にかかる色々な資料によって誤解なきよう、注意が必要と思います。